キムワイパー科学講座「化学兵器って何?」

皆さんこんにちは,キムワイパーです.

まずは2021年あけましておめでとうございます.今年はもっと多くの方に自然科学を知って,好きになってもらえるように頑張っていきます.

さて前置きはここまでにしてさっそく本題です.タイトルにあるように化学兵器についてです.皆さんは化学兵器って何かご存知でしょうか?実は私が化学に興味を持ったきっかけはこの化学兵器です.今回は化学兵器について詳しく書いていこうかと思います.

米軍の化学兵器のシンボル

1.概要

まずは定義についてです.おそらくですが,化学兵器の定義を正確に言える人ってまずいないと思います.(私もそうです…) 定義を長ったらしく書くと

毒ガスなどの毒性化学物質により、生物に対して健康的被害を与えるため使われる兵器」

となります.要は強力な毒性を持つ化学物質の兵器ってことです.化学兵器は強力な殺傷能力を持っているために化学兵器禁止条約で使用,所持,製造が厳しく制限されています.まあ当たり前ですね.ここで定義を見直すとあることに気がつく方がいるかと思います.実は定義に「毒ガスなど」と書かれているのです.ここが勘違いを生みやすいのですが化学兵器 = 毒ガスではないんです.(じゃあ毒ガスじゃなくて毒リキッドや毒ソリッドにしろよと思ってます…)また,催涙ガスなどの暴動などを抑えるために使用される物質も軍事用で使用されれば化学兵器と認定されます.

2.種類

さて定義はこの辺までにして分類についてです.化学兵器にはその性質などから次の7種類に分類されます.

血液剤(呼吸障害を起こす) 例 青酸ガス等

びらん剤(皮膚をただれさせる) 例 マスタードガス,ルイサイト等

神経剤(神経伝達を阻害する) 例 サリン,VX,ソマン等

窒息剤(呼吸器障害を引き起こす) 例 塩素ガス,ホスゲン等

嘔吐剤(呼吸器を強く刺激する) 例 アダムサイト等

催涙剤(粘膜を強く刺激する) 例 CSガス等

無力化剤(幻覚を引き起こす) 例 Agent 15 等

こうみると性質が似ているものが結構あります.血液剤は血液中の赤血球を攻撃して酸素の供給を妨害します.一方で窒息剤は肺などの臓器を攻撃して空気が吸入を妨害します.また,嘔吐剤と催涙剤は攻撃箇所が違います.ひとくちに化学兵器といっても多種多様なものがありますね.

3.性質

次に性質について話していこうと思います.性質を話す前に,皆さんはABC兵器と呼ばれる兵器を知っていますか? これは核(Atomic)兵器,生物(Biological)兵器,化学(Chemical)兵器の総称です.ABC兵器は大量破壊兵器と呼ばれ,人間を大量に殺傷することや建造物などに甚大な被害を与えるものです.核兵器は1発でその土地をすべて無にします.生物兵器は大量の細菌やウイルスで人体を攻撃します.では化学兵器の性質はこれらと比べてどうでしょうか?

答えはこの2つの兵器の長所を持っているものであると考えられます.

核兵器と生物兵器の殺傷能力を保ちつつ,長期汚染を及ぼさないものであるといえるのではないでしょうか.核兵器は使用地に長期の放射能汚染を及ぼします.また,生物兵器は細菌やウイルスの毒性を用いるため,確実性が欠けます.しかし,化学兵器は汚染が核兵器に比べて短い期間であり,生物兵器に比べて安定した毒性を持っているといえます.また,この2つに比べて安価に製造することができます.また,大学院レベルの有機化学の知識で合成できてしまいます.これらを勘案し,高い殺傷能力と安価なことから貧者の核兵器とも言われています.

左から核兵器,生物兵器,化学兵器のシンボル

4.歴史

ここでは化学兵器が開発された歴史について簡単に書いていこうと思います.

化学兵器はまず,第一次世界大戦中に開発されました.この時に開発された化学兵器を毒ガス第一世代とも呼びます.この時に開発されたのが塩素ガスマスタードガス青酸ガスです.これらの登場により,歴史でも学習したと思いますが「クリスマスまでには帰れるさ」を覆しました.化学兵器の使用合戦が始まり戦争の長期化が起きました.第一次世界大戦後に世界各国は化学兵器の軍事的価値の高さを知りました.そして世界各地で毒ガス開発が行われていくのでした.

次に第二次世界大戦中に開発されました.この時開発された化学兵器を毒ガス第二世代といいます.主にドイツで開発されたことからG剤(German Gas)と呼ばれます.この時に開発されたのがタブンサリンソマンです.これらは毒ガス第一世代よりもはるかに強力でさらに全く異なるタイプの化学兵器でした.(毒ガス第二世代からは神経剤がメインです) 第二次世界大戦中で化学兵器を開発できたのがドイツのみでした.もし,ドイツが化学兵器を使っていたら結果は大きく変わっていたかもしれませんね.

次に戦後の冷戦期に開発されました.この時に開発された化学兵器を毒ガス第三世代といいます.毒ガス第三世代はV剤(Venom Gas)と呼ばれます.この時に開発されたのがVXVEVSです.これらは毒ガス第二世代をも凌ぐ毒性を持っています.そのような兵器は冷戦時には大きなカードとなりました.そのため,VXを開発したイギリスは水素爆弾を開発したアメリカと情報交換を行いました.それほど化学兵器を世界中がほしがっていたということになります.

最後にロシアで開発されました.この時に開発された化学兵器を毒ガス第四世代といいます.毒ガス第四世代はロシア語で「新参者」を意味するノビチョクと呼ばれています.ノビチョクはG剤やV剤と同じく神経剤ですが,バイナリー兵器と呼ばれるものに分類されます.バイナリー兵器は毒性の低い2つの物質を混ぜ合わせて強力な毒物になるものです.バイナリー兵器は持ち運びと貯蔵が簡単なため,大量保存と大量使用が可能になったといえます.毒性と使用面を考えるとノビチョクは現代において最強の化学兵器といえるでしょう.

一部の化学兵器の性質や構造は私のTwitterにありますので,ぜひご覧ください.

5.終わりに

化学兵器は残念ながら世界や日本でも使用された歴史があります.今後使用されないのを願ってやみません.私のように化学に携わる人々は化学の恐ろしさを心に留めておき,化学を学ぶ必要があると考えています.皆さんはこの記事を通して化学兵器について知ることができましたでしょうか.私自身,化学を学ぶきっかけとなった化学兵器のことを再度認識することができてよい機会となりました.それではまた次の記事でお会いしましょう.

キムワイパー

6.参考資料など

1.YouTuber:ミストちゃんねる毒ガスシリーズ~毒ガスの科学~」より

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主に新聞部で自然科学のことや空想科学についての投稿を行っています. 化学と物理が好きです. 稚拙な文章ですが応援よろしくお願いします.

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