第2回えざおの毒コレクション【タリウム】

〈元素毒〉

みなさんこんにちは。
今回ご紹介する”猛毒”はタリウムです。女子学生が母親に少しずつ投与して中毒に至るまでの過程を観察していた、なんて事件やアガサ・クリスティの「蒼ざめた馬」の凶器としても有名かと思います。

僕のコレクションからは金属光沢も観察できる美しいタリウム金属の標本と昔合成した硫酸タリウムを載せておきます。

タリウム化合物はかつて殺鼠剤や脱毛剤として使われていましたが、殺鼠剤は誤飲による中毒例が報告され次第に衰退していきます。脱毛剤は主に医療用で薬剤の塗布がしやすくなるために軟膏として塗られたり、戦前には顔の除毛クリームとして発売されていましたがこれも強すぎる毒性によって販売されなくなりました。
また、製品ではなく試薬としては国内の女子学生が母親に少しずつ酢酸タリウムを投与していき衰弱していく様子を記録に収め、その様子をブログに毒殺日記として綴っていたという忌まわしき「タリウム少女事件」も起こっています。

タリウムは1gで致命的となり、主な中毒症状は神経異常、頻脈、不整脈、脱毛、悪心、下痢、嘔吐などで重篤な場合には呼吸不全、脳神経麻痺が起こり死に至ります。

何故これほどまでにタリウムは強い毒性を示すのか。それはタリウムのイオン半径がカリウムと似ているからです。カリウムといえばナトリウムと同様神経細胞の膜電位を保つ重要な役割を持ちます。そんなカリウムイオンの大きさが似ているということはタリウムとカリウムが体内で置き換わることもあり得るのです。それゆえ本来ならば細胞の活動に必要なカリウムが全く仕事のしないタリウムにすり替わり、細胞をなぶり殺しにしていくのです。タリウムは立派な細胞毒というわけですね。

タリウムの解毒はプルシアンブルー投与かカリウム剤投与くらいしかありません。プルシアンブルーは放射性セシウム吸着剤として利用されているくらいですから体内でも同様にタリウムを吸着し除去できるというわけです。

タリウム化合物は無味無臭で摂取したのち12〜24時間の潜伏期間を経て発症するのでアリバイ作りもバッチリ、しかも症状は徐々に衰弱していくというものですから病死に見せかけられて毒殺には持ってこい!と思われがちですが今の科学技術を舐めないでくださいね。100%必ず足がつきます。というかここまで飛躍的に進歩した分析技術を持つ今の時代に毒殺とかナンセンスの極みですし、完全犯罪など不可能です。くれぐれもムカつくアイツをタリウムで…なんてお馬鹿な考えはしないように。
それでは次回の”猛毒”までさよなラジカル。

えざお

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えざお

えざお

記事執筆担当 アングラ化学部 バイオ部プロフィール
化学部・バイオ部のおうちラボケミスト兼バイオハッカー見習い。まだまだ勉強中の青二才。一応環境分析化学専攻だったりする。有機化学が好き。自信は無いのでどうかお手柔らかに!

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