[第38回おうちラボで実験してみた]Reimer-Tiemann反応から始める金属配位子サレンの合成

〈実験〉有機合成化学・錯体化学

みなさんこんにちは。
今回は金属配位子に使われるサレンを合成していきたいと思います。

サレンは割と昔から研究されている配位子でその有機金属錯体は合成化学における不斉合成や酸化反応の触媒として用いられます。

●合成について
合成自体は容易です。サリチルアルデヒドとエチレンジアミンを混ぜて穏やかに加熱するだけで脱水縮合して生成します。

ただし今回はサリチルアルデヒドの合成から行いたいと思います。サリチルアルデヒドがそもそも手元に無いというのとサレンを合成するにあたって2つの試薬を混ぜて加熱するだけっていうのもなんだか面白くないのでより単純な基質からの合成を行ってみたいのです。さて、肝心のサリチルアルデヒドの合成ですが構造的にフェノールのオルト位をホルミル化しているのでReimer-Tiemann反応を使いましょう。Reimer-Tiemann反応はフェノールを塩基性条件下でクロロホルムと反応させてオルト位選択的なホルミル化(アルデヒド基の導入)を行う反応です。反応機構は以下だと考えられています。順を追って見てみましょう。

水酸化物イオンがクロロホルムのプロトンを引き抜き塩素が脱離、ジクロロカルベンが生じます。フェノキシドアニオンにオルト位選択的に求電子置換反応が起こり、フェノールの一置換中間体が生成。水酸化物イオンが求核付加し、脱プロトンに伴いカルボニル基が形成され、塩素が脱離してアルデヒドが生成します。ちなみにこの反応はあまり収率の良いものではないらしく、論文を見る限りせいぜい40%が関の山って感じでした。しかも100年以上も最適化されておらず長らく低収率を貫き通してるっぽいです。ただ反応の手軽さと手持ちの試薬でできる点が評価できるので採用します。以上全体の反応機構は以下となります。

サリチルアルデヒド合成後、エチレンジアミンの2つのアミノ基がそれぞれカルボニル基に求核付加し、イミンの形成に伴って水が脱離して縮合します。
もう一つオマケで話しておくと今回の実験におけるアルデヒドの回収についてですが、亜硫酸水素ナトリウムを使うと付加体であるα-ヒドロキシスルホン酸が得られます。

この物質は結晶性なので固体として取り出すことが可能でろ過で簡単に精製できます。酸もしくは塩基で分解すればもとのアルデヒドが得られるという寸法です。ただこのときフェノールのアルデヒド基オルト置換体とパラ置換体を分けることができないのでこの位置異性体の分離は蒸留によって行います。
それではさっそく実験を行っていきましょう。

●実験
※注意
フェノール、水酸化ナトリウム、エチレンジアミンは皮膚粘膜腐食性を有します。クロロホルムは強い毒性と麻酔性を有します。硫酸は皮膚粘膜刺激性、腐食性を有します。メタノールは強い毒性を有します。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

〜材料〜
・フェノール
・クロロホルム
・エチレンジアミン
・水酸化ナトリウム
・希硫酸(4.5mol/Lと2mol/L)
・亜硫酸水素ナトリウム
・塩化ナトリウム
・ジクロロメタン
・メタノール
・エタノール
・窒素ガス

〜器具・装置〜
・500ml三口フラスコ
・250ml丸底フラスコ
・250ml二口フラスコ
・適当容量ビーカー
・適当容量三角フラスコ
・25,50,100mlメスシリンダー
・時計皿
・側管付き滴下漏斗
・分液漏斗
・駒込ピペット
・ジムロート冷却器
・リービッヒ冷却器(&蒸留アダプタ)
・吸引ろ過瓶
・セプタムラバーキャップ
・ガラスシリンジと静脈針
・氷浴
・ウォーターバス
・オイルバス
・窒素バルーン
・マグネチックスターラー
・スターラー付きマントルヒーター
・冷却水循環装置
・水流式アスピレーター
・ロータリーエバポレーター

①水90mlに水酸化ナトリウム96gを溶解する。

②フェノール30.5gと水酸化ナトリウム水溶液を三口フラスコに入れてフェノールを溶かす。このとき65〜70℃に加温しておく。

④反応装置を組み立てる。生成物の酸化を抑えるため装置内は窒素バルーンで置換しておく。

③クロロホルム90.0gをゆっくり滴下し、全量滴下後に3時間攪拌する。反応終了の目安はクロロホルムが還流しなくなるまで。


④pH万能試験紙で液性を確認しながら35%硫酸を加えてクエンチする。

⑤水蒸気蒸留を行い、生成物を留出させる。フラスコ内部が枯れそうになったら水を100ml加えて完全に生成物を追い出す。

⑥留出液に塩化ナトリウムを適量(100mlあたり35g)加えて攪拌し、分液漏斗で有機層を回収する。

⑦水層をジクロロメタン30mlで3回抽出する。

⑦エバポレーターでジクロロメタンを留去し、先程の有機層と合併する。


⑧有機層に対して飽和亜硫酸水素ナトリウム水溶液80mlを同量加えて攪拌したのち塩化ナトリウム20gを加えて付加体を作る。白い結晶性沈殿が生じる。

⑧結晶を吸引ろ過で回収してメタノールで洗浄する。

⑨2mol/L硫酸80mlに加温溶解したのちジクロロメタン30mlで3回抽出する。

⑩ジクロロメタンをエバポレーターで留去する。

⑪留去後の液を減圧蒸留してサリチルアルデヒドを留出させる。収率は38.16%であった。

⑫反応装置を組み立て、二口フラスコ内にエタノール50mlを入れ、装置内を窒素置換しておく。もう片方の口はセプタムラバーで蓋をしておき、ニードル付きシリンジをセプタムラバーに刺してサリチルアルデヒド6.3mlを加えて攪拌する。70℃に加温しておく。


⑬ニードル付きシリンジをセプタムラバーに刺してエチレンジアミン2.0mlを加える。

⑭20分間攪拌して反応を完了させる。

⑮氷浴で冷却し、結晶を析出させる。

⑯吸引ろ過で結晶を回収する。

⑰水蒸気浴で乾燥する。

⑱サレンが得られた。収率は66.96%であった。

めでたくフェノールを出発物質としてReimer-Tiemann反応からサレンを合成することができました。本当に長かった。途中やり直したりして普通のラボなら30分ほどでささっと作れる化合物も結局すべて合成完了するまで丸3日かかってしまいました。ただ割と本格的な有機合成で実験自体はとても楽しく行えました。それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお

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えざお

えざお

記事執筆担当 アングラ化学部 バイオ部プロフィール
化学部・バイオ部のおうちラボケミスト兼バイオハッカー見習い。まだまだ勉強中の青二才。一応環境分析化学専攻だったりする。有機化学が好き。自信は無いのでどうかお手柔らかに!

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