[第33回おうちラボで実験してみた]定番の気絶薬クロロホルムを殺菌消毒剤から作ってみた。

〈実験〉有機化学

みなさんこんにちは。
今回はクロロホルムを作っていきたいと思います。クロロホルムという名前はみなさん一度は聞いたことあるのではないでしょうか。化学的にはメタンの水素3つを塩素に置換したトリハロメタンと説明されます。

ドラマでは青酸カリの次に登場頻度が高めな薬品です。無駄にカッコいい名前と吸ったらヤバいという危険も相まってなんとも言えない魔性の魅力を持っています。そんなクロロホルムは実は高校化学で習う反応で、しかも身近な素材で簡単に作ることができてしまうのです。

●クロロホルムで気絶するのか
怪しげな男がハンカチに染み込ませて後ろから襲いかかり、鼻が覆われた瞬間気絶して数時間後に咳き込みながら目覚めた頃には拉致られてた、というサスペンスではお約束の女の子のお持ち帰り方法なわけですが、ハッキリ言うとあれは嘘です。冷静に考えてみましょう。ハンカチに染み込ませたものを一瞬吸った程度でぐったりするんですよ?ドバドバ溶媒として使う研究室だったらそこら中に気絶した人間が転がってるはずですよね。でも実際そんなことはありません。クロロホルムを使って一瞬で逝かせるのは所詮フィクションの域を出ないわけです。しかし、クロロホルムがかつて麻酔として使われていたのは事実です。空気と混合したガスを長時間吸わせて麻酔として使いました。ただ精度が悪いのとそもそもクロロホルムの毒性が強く下手したら患者が死ぬという元も子もないことが起こりうるので全く使われなくなりました。

●クロロホルムの合成について
前述の通りクロロホルムは高校化学で習う反応によって作ることが可能です。ハロホルム反応です。高校ではヨードホルム反応としてお馴染みだと思います。アセチル基やメチルカルビノール構造を持つ化合物に塩基性条件でヨウ素を反応させるとヨードホルムの黄色沈殿が生じるというものです。ヨードホルムもクロロホルムも同じハロホルム(トリハロメタン)で、メタンの水素3つがハロゲンに置換した物質なのでそのハロゲン種を変えるだけでクロロホルム(Cl)でもブロモホルム(Br)でもヨードホルム(I)でも作れるわけです。今回はクロロホルムを作りたいわけなので塩素を使いますがご存知の通り塩素は毒性が非常に高い気体で扱いづらいことこの上なしです。そのため塩素の代わりに次亜塩素酸ナトリウムを使います。次亜塩素酸ナトリウムは殺菌消毒剤や漂白剤に使用される身近な塩素源です。次亜塩素酸塩をエタノールないしアセトンと反応させる製法はクロロホルムの最初の工業的製法でもありました。反応機構は以下です。

まずアセトンのα位の水素を水酸化物イオンが引き抜きます。そのまま電子が酸素に流れて行きエノラートが生じます。エノラートはすぐさまカルボニル基を再生させ、求電子的にα炭素が塩素化します。これをあと2回繰り返すとα炭素に3つ塩素が置換した脱離能の高いハロメチルケトンができます。続いてカルボニル炭素に水酸化物イオンが求核付加し、カルボニル基再生とともに-CCl₃が脱離してカルボアニオンが生成します。カルボアニオンは最終的に水素を受け取ってクロロホルムが生成します。

●実験
※注意
次亜塩素酸ナトリウムは皮膚粘膜刺激性・腐食性を有します。クロロホルムは強い毒性と麻酔性を有します。アセトンは麻酔性と引火性を有します。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

〜材料〜
・ピューラックス(殺菌消毒剤)
・アセトン
・塩化ナトリウム
・塩化カルシウム
・メタノール

〜器具・装置〜
・適当容量ビーカー
・適当容量三角フラスコ
・メスシリンダー
・分液漏斗
・単蒸留装置
・冷却水循環装置
・冷凍庫
・ドラフトチャンバー

①後の反応で発熱するので予めピューラックス(6%次亜塩素酸ナトリウム水溶液)1800mlを冷凍庫でよく冷やしておく。今回は4本使う。

②冷却後のピューラックス1本あたりにアセトン50mlを加えてよく振とうする。必ず適度に圧力解放を行う。

③3時間放置して反応を進行させる。

④3時間経過後、慎重に中の液体を取り出す。クロロホルムは比重が大きいので底に溜まっているので水層はデカンテーションで取り除く。

⑤底に沈んだ液体を確認できたら分液漏斗に移して下層のクロロホルム層を回収する。

⑥再度有機層を分液漏斗に移して飽和塩化ナトリウム水溶液50mlを加えて振とうし、下層を回収する。

⑦クロロホルムに塩化カルシウムを加えて乾燥させたのち、ろ過によって塩化カルシウムを取り除く。

⑧蒸留装置で60℃の留分を回収する。

⑨分解を抑えるために少量のメタノールを加える。クロロホルムが得られた。収率は50.11%であった。

めでたくクロロホルムの合成に成功しました。クロロホルムはそこそこ使う有機溶媒のくせに販売所を見つけるのはほぼ不可能、個人での入手は大変困難なので自分で作るしかありません。ただ絶対買った方が早いし格段に安いことは間違い無いです。世知辛い。それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお

The following two tabs change content below.
えざお

えざお

記事執筆担当 アングラ化学部 バイオ部プロフィール
化学部・バイオ部のおうちラボケミスト兼バイオハッカー見習い。まだまだ勉強中の青二才。一応環境分析化学専攻だったりする。有機化学が好き。自信は無いのでどうかお手柔らかに!

関連記事

  1. [第9回おうちラボで実験してみた]理系が本気でキムワイプをおいしくして…

  2. [おうちラボで実験してみた番外編2]レベル別に見る自宅実験の経験値

  3. [第38回おうちラボで実験してみた]Reimer-Tiemann反応か…

  4. [第7回おうちラボで実験してみた]人類初の合成医薬品!アスピリンを合成…

  5. [第20回おうちラボで実験してみた]金属配位子のジベンザルアセトンを合…

  6. [第3回おうちラボで実験してみた]リアルDr.STONE!?イチから石…

  7. [第37回おうちラボで実験してみた]ランタノイド元素から蛍光物質を合成…

  8. [第3回おうちラボで実験してみた]リアルDr.STONE!?イチから石…