[第30回おうちラボで実験してみた]MDMAの前駆体!?胡椒から辛味成分ピペリンを抽出してみた。

〈実験〉天然物有機化学・分離化学

みなさんこんにちは。
今回は胡椒からアルカロイドであるピペリンを抽出していきたいと思います。ピペリンは胡椒の辛味成分として含まれています。

比較的多く植物体に含まれ、抽出も容易で結晶化しやすいことからアルカロイドマニアからは結構な人気を得ています(アルカロイドマニアって何)。

●ピペリンおよびアルカロイドについて
アルカロイドに関してはトリカブトの猛毒成分アコニチンの抽出について取り上げた第4回座学編でお話ししました。さらっとおさらいします。アルカロイド自体定義がかなり曖昧ですが一般的には「生理活性が顕著な含窒素天然有機化合物」とされています。身近なアルカロイドを列挙していくと、カプサイシン、カフェイン、ニコチン、モルヒネ、コカインなど聞いたことあるものばかりです。そしてこれらはそれぞれ辛味をもたらしたり、眠気覚ましになったり、依存性をもったり、麻酔性があったり、多幸感が味わえたりします。このように生体に大きく影響を与えるのが生理活性です。今回のターゲットとなるピペリンもカプサイシンと同様に辛味をもたらすという意味で生理活性が顕著なのです。これらは感覚神経に存在するTRPV1、TRPV2という温度受容体を活性化するため、摂取すると体がポカポカと温かくなるのを感じます。辛いものを食べたとき身体が温まるのはこのためです。
さて、話を少しアングラ路線に変更しましょう。実はピペリンは幻覚剤として有名なMDMAの原料にもなり得ます。「胡椒からMDMAを作る」なんて夢のあるマッドサイエンスなことも出来るには出来ます。しかしながら相当な労力が必要なこと、そもそも法律が許していないことなどの要因により「故障で虹色の羊と戯れる」ことは不可能です。しかしピペリンからどうMDMAに誘導するのか考える分には合法なので以下に合成ルートを載せておきます。

ピペリンを加水分解してピペリン酸を得たのちピペロニル酸に誘導し、還元してピペロナールにする。ニトロアルドール反応によって不飽和ニトロ化合物を得たのち還元してMDAを得る。最後にアミノ基をメチル化してMDMAの完成という寸法です。実行したら即刻お縄なのでやらないように。やる人いないと思うけど。

●実験について
以前行ったアルカロイドの抽出ではターゲットがアコニチンでした。アコニチンは構造内にエステル結合を持つため、酒石酸などの弱酸で抽出して炭酸ナトリウムで弱塩基遊離させました。この方法自体はオリジナルで結構な収率だったのでお気に入りだったりします。ピペリンに関しては抽出方法に確立されたセオリーがあります。
①アルコールで抽出
②水酸化カリウムのアルコール溶液を加える
③水を加えて析出
④ろ過して粗抽出物を回収
⑤再結晶
という流れです。おそらく②でアルカロイドの遊離を行っていると思われます。遊離塩基となったピペリンは水に溶けないので③で晶析させているのでしょう。それではさっそく実験してみましょう。

●実験
※注意
水酸化カリウムは皮膚粘膜腐食性を有します。エタノールは引火性と麻酔性を有します。抽出したピペリンは食用に適しません。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

〜材料〜
・胡椒粉末
・エタノール
・イソプロパノール
・水酸化カリウム

〜器具・装置〜
・ソックスレー抽出器一式
・適当容量ビーカー
・吸引ろ過器
・ホットマグネチックスターラー
・冷却水循環装置
・水流式アスピレーター
・ロータリーエバポレーター

①粉末胡椒40gをソックスレー抽出器にセットする。下部のフラスコにはエタノール150mlを溜めておく。

②加熱還流を行い3時間ほど抽出を行う。

③ロータリーエバポレーターで余分な溶媒を留去して濃縮する。

④水酸化カリウム5.0gをエタノール40mlに溶かす。

⑤エタノール性水酸化カリウム溶液を濃縮液に加えて攪拌する。

⑥混合液を自然ろ過する。ろ紙をひだ折りにしておくと効率が良い。

⑦混合液に黄色の沈殿が生じなくなるまで水を少しずつ加える。


⑧冷凍庫で半日冷やす。この操作によって沈澱の粒子が大きく成長しろ過しやすくなる。この操作を抜かすとろ過が行えない。

⑨冷却後、液を吸引ろ過して沈殿を回収する。

⑩沈殿に適量のイソプロパノールを加えて加熱攪拌する。

⑪室温で放冷し、十分に析出したら吸引ろ過を行い結晶を回収する。冷却した少量イソプロパノールで洗浄する。

⑫ピペリンの結晶が得られた。

めでたくピペリンの結晶をあることができました。原料に対して抽出して得られる量がトリカブトの時とは段違いです。アルカロイドコレクションに加えておきましょう。今回得られたピペリンは一応食品由来だとしても食用には適さないので口にするのはやめておきましょう。また、余談ですがピペリンは薬物代謝を阻害しバイオアベイラビリティを格段に向上させるので服薬する際は胡椒をはじめピペリンを含有する食品には注意が必要です。それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお

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えざお

えざお

記事執筆担当 アングラ化学部 バイオ部プロフィール
化学部・バイオ部のおうちラボケミスト兼バイオハッカー見習い。まだまだ勉強中の青二才。一応環境分析化学専攻だったりする。有機化学が好き。自信は無いのでどうかお手柔らかに!

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