[第11回おうちラボで実験してみた]温度で色が変わるサーモクロミック物質を作ってみた。

〈実験〉無機合成科学・材料化学・物理化学

みなさんこんにちは。
今回は外部刺激によって色が変化する不思議な物質を作っていきたいと思います。

●クロミズムについて
みなさんはクロミズムやクロミック物質などの言葉をご存知でしょうか。外部からの刺激によって可逆的に色が変化することをクロミズム、そのような性質をもつ物質をクロミック物質と呼んだりします。外部からの刺激とは様々で、熱、光、電気、圧力、溶媒の極性の変化などがあります。刺激の種類によって○○クロミズムと名前が付きます。以下に例をあげます。
・熱→サーモクロミズム
・光→フォトクロミズム
・電気→エレクトロクロミズム
・圧力→ピエゾクロミズム
・溶媒極性→ソルバトクロミズム
これらクロミック物質は身近な物に応用されています。代表的なものでいえばサーモクロミズムを利用した消せるボールペン(フ○クションペン)やお湯を入れると柄が変化するマグカップなどでしょう。フォトクロミズムは記憶媒体への応用、エレクトロクロミズムはディスプレイ材料としての応用が期待され今現在も盛んに研究が行われています。また、ソルバトクロミズムに関しては身近なものでいうと塩化コバルト(Ⅱ)がその性質を示します。中学校の理科でも習った通り塩化コバルト(Ⅱ)は水に触れると赤桃色になりますが、アセトンやアルコールなど水を含まない有機溶媒に溶かすと青色になります。

●クロミズムの原理について
何故クロミック物質は環境に応じて色が変化するのでしょうか。まず色とは何かを考えてみましょう。自然界に存在する白色光は波長が短い順に紫、藍、青、緑、黄、橙、赤が混ざった状態であり、我々が視認できる光の領域であるためこの波長範囲(約400〜800nm)を「可視光領域」と呼んでいます。

物質が白色光のうち特定の範囲の波長(スペクトル)を吸収した場合、その残りを色として人間は認識します。この吸収スペクトルのピークは物質の構造に大きく依存するため、クロミック物質のように外部刺激で容易に構造が変化するものはそれに伴って吸収スペクトルのピークが変化するため色がガラッと変わるように見えるのです。

●今回の実験について
今回は合成ターゲットをサーモクロミック物質に絞っていきたいと思います。サーモクロミック物質には有機材料と無機材料が存在しますが、有機材料はかなりハードルが高いため、合成が容易でかつ比較的低温の範囲で色の変化が顕著な無機材料を選択します。そこでテトラヨージド水銀(Ⅱ)酸銀を合成することにしました。50度ほどに加熱すると黄色から赤橙色へと変化します。合成にあたっての化学反応式は以下です。

●実験
※注意
水銀は強い神経毒性と環境毒性を有します。濃硝酸は皮膚粘膜刺激性・腐食性を有します。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

~材料~
・水銀
・銀
・濃硝酸
・ヨウ化カリウム
・チオ硫酸ナトリウム

~器具・装置~
・ビーカー(適当容量)
・メスシリンダー
・吸引ろ過器
・水流式アスピレーター
・ホットマグネチックスターラー
・ウォーターバス
・減圧デシケーター
・ドラフトチャンバー

①銀1.3gと水銀1.2gを混合して銀アマルガムを作る。


②濃硝酸10mlを加えて完全に溶解させる。溶けにくい場合は湯煎して適宜加熱する。結晶が析出する場合には水10mlを加える。この操作では有毒な二酸化窒素が発生するので必ずドラフト内で操作を行う。

③ヨウ化カリウム3.8gを適量の水に溶かす。

④②の溶液を③の溶液に加える。

⑤橙色の上澄みをデカンテーションで取り除いて黄色の沈殿を数回水洗し、吸引ろ過で回収する(橙色上澄みにも水銀が含まれているため廃液は全て回収しきる)

⑥適当濃度のチオ硫酸ナトリウム水溶液で洗浄し、副生成したヨウ化銀を除去する。ヨウ化銀は感光性があるため、光に当たると褐色になる。

⑥減圧デシケーターで一晩乾燥させる。

⑦乾燥後バイアル瓶に移す。50〜60度に湯煎してサーモクロミズムを観察する。

合成したテトラヨージド水銀(Ⅱ)酸銀は結晶構造の相転移によって黄色から赤橙色へと色が変化します。銀の代わりに銅を用いると今回よりも高温条件で赤色から暗褐色に変化するようです。可逆的変化ゆえ室温で数分間放置すれば元の色に戻るので何回でも遊べます。
今回の実験は水銀を扱っているため実験廃液には特に気を遣う必要があります。発生した廃液はすべて回収し、密閉容器に封印保管しました。
それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお

【参考文献】
[1]色の変わる分子〜クロミック分子〜(Chem-Station)
[2]Thermochromism ft Silver Tetraiodomercurate(Doug’s Lab from YouTube)
【画像引用】
[1]orcagrowfilm.com

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えざお

えざお

記事執筆担当 アングラ化学部 バイオ部プロフィール
化学部・バイオ部のおうちラボケミスト兼バイオハッカー見習い。まだまだ勉強中の青二才。一応環境分析化学専攻だったりする。有機化学が好き。自信は無いのでどうかお手柔らかに!

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