[第26回おうちラボで実験してみた]局所麻酔薬ベンゾカインを合成してみた。

〈実験〉有機合成化学・医薬品化学

みなさんこんにちは。今回は局所麻酔薬として使われるベンゾカインを合成していきたいと思います。ベンゾカインは主に虫刺されの痒みや外傷の痛みを抑えるのに用いられたり、歯科で歯茎に浸潤麻酔を注射する前の表面麻酔としても用いられます。ちなみに歯茎に注入しているのはリドカインという別の麻酔薬です。

●麻酔薬について
麻酔薬の構造では基本的に芳香環とアミノ基を持っています。芳香環は脂溶性で細胞膜リン脂質を透過するのに一役買っており、逆にアミノ基は水溶性としての性質を持っています。麻酔薬が体内に取り込まれるとアミノ基がプロトン化したイオン型分子とそうでない非イオン型分子が平衡状態で共存します。イオンにならなかった非イオン型分子は細胞膜を透過し細胞内に入り込みます。そして細胞内でプロトン化を受けイオン型分子に変化し、細胞膜のNaチャネルと結合して塞ぎます。そもそも痛みとはNaチャネルが開いてナトリウムイオンが細胞内に流入し脱分極を起こすことで活動電位が生じ、神経が興奮状態になることを指します。つまり、麻酔薬は細胞膜からヌルッと侵入して内側からナトリウムイオンの入り口を塞ぎ、痛みが引き起こされる一連の流れを阻害してしまうのです。
麻酔薬は芳香環とアミノ基以外の部分構造によってエステル型とアミド型に分類することができます。エステル型は最終的に血漿コリンエステラーゼによって分解され、アミド型は肝臓で代謝されます。ゆえにエステル型の方が寿命が短めです。

●合成について
今回合成するのはエステル型局所麻酔薬のベンゾカインです。物質名は4-アミノ安息香酸エチルでわりかし単純な構造をしています。

アミド型局所麻酔薬のリドカインも合成できなくはないのですが家庭レベルの実験となると基質のハードルがやたら高いのです。

1,3-ジメチル-2-ニトロベンゼンとクロロアセチルクロリドが手に入れづらく、原料合成しようにもかなりの危険を伴うのであまりやりたくないというのが本音です。なので今回は大人しくマイルドに合成できそうなベンゾカインを採用します。リドカインもいつかはやってみたいと思います。
合成方法についてですが運良く4-アセトアミド安息香酸を入手することができたのでこれを原料にしたいと思います。4-アミノ安息香酸のアミノ基がアセチル化されてるだけなので適当な塩基で加水分解すれば簡単に誘導できますね。よって合成ルートは以下です。

4-アセトアミド安息香酸のアミド結合を水酸化ナトリウムで加水分解し、酸を加えて弱酸遊離反応で4-アミノ安息香酸を回収。濃硫酸触媒でエタノールとエステル化すれば見事ベンゾカインの完成です。それでは早速やってみましょう。

●実験
※注意
水酸化ナトリウム、濃硫酸、濃塩酸は皮膚粘膜刺激性・腐食性を有します。エタノールは引火性、麻酔性を有します。いずれの試薬も薬傷、失明の危険性があり、重篤な事故につながる恐れがあります。安易な真似は控えてください。実験者は白衣、保護眼鏡、手袋を着用し、必要に応じて局所排気設備を使用しています。

〜材料〜
・4-アセトアミド安息香酸
・エタノール
・水酸化ナトリウム
・濃硫酸
・炭酸水素ナトリウム

〜器具・装置〜
・250ml丸底フラスコ
・適当容量ビーカー
・三角フラスコ
・メスシリンダー
・吸引ろ過瓶
・ジムロート冷却器
・スターラー付きマントルヒーター
・水流式アスピレーター
・冷却水循環装置

①4-アセトアミド安息香酸30gと25%水酸化ナトリウム水溶液100mlを混ぜて30分間加熱還流する。淡黄色の液体が得られる。


②反応液を冷却し、濃塩酸を徐々に加える。数滴加えると酢酸ナトリウムの析出で内容物が固まるが、さらに加えていくと酢酸が生成し液体に戻る。さらに加えると白色沈殿が生じる。固まるので適宜水を加えたりガラス棒を使ったり振り混ぜたりしてよく攪拌する。pH3.0〜2.0に調整する。




③白色沈殿を吸引ろ過で回収する。粗4-アミノ安息香酸が得られた。

④適量の熱湯に粗4-アミノ安息香酸を懸濁し、適宜様子を見ながら熱湯を追加する。完全に溶け切ったら熱湯の追加を止める。

⑤室温で放冷し結晶を析出させる。

⑥吸引ろ過で結晶を回収する。精製4-アミノ安息香酸が得られた。収率は88.76%であった。

⑦乾燥させた4-アミノ安息香酸全量にエタノール200mlと濃硫酸25mlを加える。流動性が低くなる上に発熱するので少し加えて振とう攪拌する。


⑧90分間加熱還流し反応させる。

⑨反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を徐々に加えてpH8.0に調整する。

⑩析出した結晶を吸引ろ過で回収する。4-アミノ安息香酸エチル(ベンゾカイン)が得られた。収率は90.35%であった。総合収率は80.19%であった。

今回めでたく局所麻酔薬ベンゾカインの合成に成功しました。本来、実験生成物を人体に使用するのは御法度ですが、どうしても本当に出来ているのか知りたかったので自己責任で微量舐めてみたところ歯医者の麻酔のように舌先が数分間麻痺したのでおそらく成功しています。絶対真似しないでください。この程度の合成実験であれば手数も少なく、かつ既知の反応しかないので余程のことが無い限り目的物は生成していると考えて良いと思います。それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお

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えざお

えざお

記事執筆担当 アングラ化学部 バイオ部プロフィール
化学部・バイオ部のおうちラボケミスト兼バイオハッカー見習い。まだまだ勉強中の青二才。一応環境分析化学専攻だったりする。有機化学が好き。自信は無いのでどうかお手柔らかに!

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