[第21回おうちラボで実験してみた]伝統技法で幻の青色顔料を鉱物から錬成してみた。

〈実験〉無機材料化学・鉱物学

みなんさんこんにちは。
今回はいつもの化学実験とは少し毛色が違うことをしてみたいと思います。鉱物すなわち石から顔料を作っていきます。岩絵具に代表されるように発色が良く、褪せにくく、加工がしやすい鉱物は古くから砕いて粉末状にして顔料として利用されてきました。その中でも特段美しい色を放つのが「ウルトラマリンブルー」と呼ばれるものです。今回はこれを作っていきます。

●ウルトラマリンブルーについて
ウルトラマリンブルーの原料はラピスラズリと呼ばれる天然石で美しく深い青色の石です。実は単一の鉱物ではなく、青金石、方ソーダ石、藍方石、黝方石の固溶体で、さらに不純物として方解石や黄鉄鉱を含みます。純粋で真っ青なラピスラズリの評価はもちろん高いのですが、方解石や黄鉄鉱が一部分に点々と散りばめられているものは見た目が夜空のように美しいためその点も評価されることがあるようです。

ラピスラズリは古くから珍重されており、特に古代エジプトではツタンカーメンの黄金のマスクの青い差し色をはじめ高貴な装飾品に用いています。

そんなラピスラズリを原料とした顔料「ウルトラマリンブルー」は金よりも高価であり、これをふんだんに使ったのがかの有名なオランダの画家フェルメールでした。フェルメールの代表作「真珠の耳飾りの少女」は誰もが知る名画ですが、この印象的な青いターバンを塗るのにウルトラマリンブルーが使われています。

フェルメールはウルトラマリンブルーに浪費するあまり多額の借金を背負い、生活が困窮していたそうです。この顔料はあまりにも高価なため宗教画の聖母マリアの衣のみに使うなど範囲が限定的であったり、同じく青い顔料のかなり安価なアズライトを下地として用いて使用量を減らすなど様々な工夫が行われていました。

●ウルトラマリンブルーの化学的性質
ラピスラズリのあの青色は主に青金石(ラズライト)が寄与しており、Na₈-₁₀Al₆Si₆O₂₄S₂-₄という組成を持っています。主成分はアルミニウムとケイ素と硫黄であり、硫黄が青色を作るのに大きく役立っています。この化合物は酸に弱く、酸と触れると硫化水素を発生させながら退色してしまいます。しかしそのような環境下でなければ耐候性、耐熱性に優れており色褪せにくいため、数世紀前から現在にまでその色が絵画として受け継がれており、顔料として大変貴重なのです。
さて、このウルトラマリンブルー、先ほどから希少だの高価だの言ってきましたが今ではそんなことありません。というのも今現在市場に出回っているウルトラマリンブルーのほとんどが合成品だからです。天然であればもちろん非常に高価ですが、人工的に大量生産可能になってしまった今、合成ウルトラマリンブルーは安価な顔料として用いられ、ほとんど天然モノは生産されなくなってしまい、幻の顔料と化してしまいました。ただ以前には大手画材メーカーのホルベインと東京藝術大学によって「本瑠璃」という名称で本物のラピスラズリから作られた顔料が製造されていました。4.2gで5万円という高値っぷり。一体どんなに筆に自信のある人が買うのでしょう。恐ろしくて使う気にもなれません。

●ウルトラマリンブルーの作り方について
単にラピスラズリを粉砕すれば顔料になるわけではなく、少し手間をかけなければなりません。15世紀のイタリアの画家チェンニーニが作り方の詳細を残しています。「ラピスラズリを粉砕したものを蝋、樹脂、油と混ぜ合わせて布で包み、灰汁の中で揉むことで青い顔料が底に沈む」とのことです。蝋とは蜜蝋、樹脂とはマスチックガム、油とは松脂のことらしいです。マスチックガムは高級素材なのかこの中でズバ抜けて高いです。主役のラピスラズリよりも高い。
さて、これらを熱で溶かしてラピスラズリの粉末を混ぜたパテをアルカリ水中で揉みほぐすことで青い顔料粒子のみが遊離し、顔料にならない残り物はパテの中に残るとのこと。おそらくアルカリで揉むことによってパテの油脂が鹸化されて溶けるので粒径の小さな細かい顔料は遊離し、粒径の大きい不純物は残り続けるという原理でしょう。揉み続けると次第にウルトラマリンブルーの等級が落ちるという言説からもこの原理なら納得できます。それでは早速やってみましょう。

●実験
※注意
使用する材料には引火性を有するものがあります。また、皮膚が弱い人が素手で行うと肌荒れを起こす可能性があります。実験者は安全性を確保して作業を行なっています。

〜材料〜
・ラピスラズリ粉末
・松脂
・マスチックガム
・蜜蝋
・炭酸カリウム
・エタノール

〜器具・装置〜
・マントルヒーター
・ステンレスボウル
・クッキングシート
・鍋
・適当容量の容器
・吸引ろ過器・水流式アスピレーター

①ボウルをマントルヒーターにセットして100度に加熱し、松脂150g、マスチックガム75g、蜜蝋75gを溶かして混ぜ合わせる。


②ラピスラズリ粉末300gを①に入れてよく混ぜ合わせる。

③クッキングシートの上に広げて柔らかいうちに練り上げ、3日間ほど放置する。

④80度のお湯に浸して柔らかくする。

⑤0.5%炭酸カリウム水溶液1500mlを50度に温めてパテを10分間よく練る。これを4回ほど繰り返す。

⑥液を容器に入れて静置し、顔料を沈殿させる。

⑦デカンテーションで上澄みを捨て、沈殿を文明の利器吸引ろ過で回収する。エタノールを用いて数回洗浄する。

⑨天然ウルトラマリンブルーが得られた。

得られたウルトラマリンブルーは原料のラピスラズリに対して非常に微々たるものでした。金よりも高価であると言われる所以が分かった気がします。品質の良いラピスラズリから作った粉末ならもっとたくさん採れたかもしれませんね。それでは次回の実験までさよなラジカル。

えざお

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えざお

えざお

記事執筆担当 アングラ化学部 バイオ部プロフィール
化学部・バイオ部のおうちラボケミスト兼バイオハッカー見習い。まだまだ勉強中の青二才。一応環境分析化学専攻だったりする。有機化学が好き。自信は無いのでどうかお手柔らかに!

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